第2幕「エンターテイメント」
第1幕で物語の前提を示し、主人公たちの目的を明らかにした。
続くプロットポイント1ではその目的を、今日、今から果たすのにお誂え向きの事件がおきて、主人公は今までの自分とは違うヒーローになる。
もっとも彼が得た力は偽りのものでいつかは手の内から滑り落ちていく危ういものなのだが、それはまだ後の話。
新しい力を得たヒーローには、しばしその力を楽しむ時間、「エンターテイメント」が待っている。
第2幕「エンターテイメント」では思いっきり読者を楽しませることを心掛けよう。
キリンの国でなら冒険が幕をあけ、少年たちは自分達で作戦をたて、決行し、行動し、山をこえ、谷をこえ、人々出会いながらお姫さまを目指す。冒険の醍醐味を味わってもらうことが目的だった。
スパイダーマンで話すのなら、主人公がその能力で悪い奴らを叩きのめし、夜の町をスリル満点で疾走する。意中の女の子にもお近づきになっちゃうという、人生最高の瞬間をおくる。
辛気くさいことはおいておいて、ここではどんどん読者を楽しませよう。例え物語りが悲劇から始まる復讐劇だったとしても、この第2幕では読者を楽しませなければならない。
第1幕で辛酸をなめた主人公が、プロットポイント1では犯人を追い詰める手がかりを手に入れ、第2幕では新たな協力者や、力や武器の獲得、敵の弱みを握り、ボスの手下をなぎ払い、アジトをロケットランチャーでぶっ飛ばす、そういう展開でなければならない。
第2幕(エンターテイメント」は文字通りエンターテイメントをする場所であり、我々が娯楽作品を書いている以上、ここで読者を楽しませるという約束を果たさなければならない。
敵をぶっとばそう、主人公を活躍させよう、異性からは熱い視線をおくらせよう。
第二幕の注意点
ただそうしたエンターテイメントの水面下で行なわなければならないことが一つある。
前回から言っているようにプロットポイント1の変身は偽りであり、そこで得た力も、その力で為しえた事も、手にした物も、全て砂上の楼閣、失うことを前提としている。
何故ならそれらは主人公の本当の決意、本当の変身に得られたものではないからだ。
運よく何かが手に入り、そのまま幸せになりました、というストーリーでは観客は納得しない。
主人公は全てを失い、もう一度、今度は自分の力で、第1幕では為しえなかった恐ろしい決断によって、本当の変身、真のヒーローにならなければならないのだ。
というわけで、エンターテイメントの裏側で進めなければならないのは、そうしたエンターテイメントのなかで勝ち得ていく財産の喪失への準備だ。
皮肉なものだが、物事とは表裏一体、好事魔多し、なのである。
主人公は上手くいきすぎて当時の謙虚さを忘れ、少し傲慢になっているかもしれない。
外からもたらされた変化では太刀打ちできない、恐ろしい強敵が迫っているのかもしれない。
とにかく成功と同時に、破綻を予感させるような緊張感を、それでも第2幕の目的である「エンターテイメント」を邪魔しない程度に、忍びこませなければならない。
ここで必要となるのはバランス感覚だ。第2幕のなかにも序盤、中盤、終盤が存在し、それぞれでエンターテイメントと危険の予感の調合を変えていく。
最初はエンターテイメント100%でこの世の春を謳歌していただこう、しだいに冬の到来を予感させるように、秋風を吹かしていけばいいのだ。