9本目 誰でもできる三幕構成術その3

 三幕構成は第一幕「状況設定(ルール説明)」第二幕「エンターテイメント」第三幕「解決」の三つからなる。

 前回までは第一幕「状況設定(ルール説明)」について語った。状況設定が可及的速やかに行なわれなければならず、また動機によって物語のスピードも調整しなければならない。

 これらが終り、物語の前提が示し終ると、第2幕に入る。

 前に。

 3幕構成にはそれぞれ次幕に移る前に、プロットポイントとというものがある。

「状況設定」から「エンターテイメント」に移り変わる瞬間をプロットポイント1、といい、「エンターテイメント」から「解決」に切り替わる瞬間をプロットポイント2という。

 それぞれのプロットポイントを経て、ストーリーラインは転調し、あるいはスピードを変える。

 今回は「状況設定」から「エンターテイメント」へと移り変わる瞬間、プロットポイント1を説明したい。

プロットポイントの概念

 プロットポイントとはそれぞれ主人公が変身する瞬間である。

 スパイダーマンでいえば言葉どおり主人公がスパイダーマンに変身、悪をぶちのめしはじめる。

 何故変身しなければならないのか。

 それは物語が〝今日〟始まるからだ。

 第1幕の状況設定において、主人公の欠けたパイが設定され、それを埋めるための物語前提が示された。

 ここで重要なのは主人公の欠けたパイは今欠けたか否か、なのである。主人公が達成を渇望する欠けたパイは、今し方欠けたばかりなのか。そうではないだろう。長い人生のなかで満たされなかった願いが、ある事件を切っ掛けに強烈に達成への欲求を萌芽させる。

 この事件が変身の切っ掛け、「偽りのヒーロー」への変身だ。

 何故、偽りなのか。それは後で話す。

 とにもかくにも事件は起きて、主人公は変身、つまり今までとは違う姿と状況に変わる。

 今までは欠けたパイを放置できた。

 しかし今日この瞬間、それは不可能へとかわる。

 あるいは今までは不可能で叶えられることに微塵の可能性も見いだせなかったことが、今日、何らかの切っ掛けで千載一遇のチャンスを得た。

 そういう事件、そしてその事件によって主人公が行動へと移る瞬間がプロットポイント1なのである。

 キリンの国で言うなら、六割男児を決め込もうとした圭介が、窓を跳び越えて空を追いかけるキリンの姿に思わず腰を上げてしまった瞬間こそ、プロットポイント1だ。

「ここからぬけだそう、綺麗なものを見にいこう、わくわくすることをしようぜ」

 誘われて、圭介のなかに眠っていたものが目覚め、彼はもう一度自由な少年になる。あの瞬間から、圭介は六割男児ではなくなるのだ。

 もっとわかりやすい例では、やはりスパイダーマンだろう。ひ弱だった主人公は、クモに咬まれるという偶然の事件(プロットポイント1)によって、夢だったヒーローのような肉体と能力を手に入れる。

プロットポイント1の特徴

 プロットポイント1の第一の変身において重要なのは、それが偽りの変身であるということだ。

 圭介の変身はキリンによってもたらされた物であり、彼自身の決意によるものではない。また一夏の冒険の間はという限定的なものであり、いつかは元に戻るという保険つきのものでもあった。

 スパイダーマンの変化もまた、クモに咬まれるという外的な事件からもたらされ、彼はその肉体や能力を得ることに何の努力も犠牲もはらっていない。

 言わばプロットポイント1によって得られる変身、能力、変化は〝不相応〟なものであり、いつかは失われる危なっかしいもの、なのである。

 しかしながら、とにもかくにも、このプロットポイント1の事件、変身によって偽りではあるがヒーローとなった主人公は、目的達成に向かって、活躍しはじめる。

 第2幕、「エンターテイメント」の始りである。

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