31本目 君のために学ぶ~世界観のつくりかた04~

 君のために学ぶ~世界観のつくりかた~

 前回は物語世界観に分析をかける上で、衣食住という三要素の視点から覗いて見ることの有効性について語った。

 今回は「衣食住」を見極める視線を、鋭く高感度に仕上げる勉強方について語る。

 そう、結局は勉強なのであり、多少のコツはあったとしても、近道はない。

 衣食住を探る目を育てる勉強法

 その1

 まずは何を置いても体験だ。封建制度の残る社会を描くのに、貴方自身がコンビニ弁当ばかり食べているようではいけない。あれは資本主義社会の産物だ。

 自分の手で収穫せよ、とまでは言わないが、料理ぐらい自分で作ってみよう。教本ならクックパッドで十分だ。煮物、焼き物、酢の物、あれこれ、一通り作れば料理をするのに何が必要か、ぼんやりとだか見ている。みりんがどういう味がするのか、醤油は日にどれくらい消費するものなのか、米を冷水で研ぐときどんなに冷たいか。そういう体験が、物語世界観を構築していく上で大切な指標になる。

 料理を知らない貴方は残酷にも少女たちのアカギレを放置するかもしれない。しかし冬場、脂の落ちきった手で冷水のなかの米をとぐ苦しみをしるのなら、豚の脂くらいは用意して、料理のあと、暖炉の傍で彼女たちがそれを塗り込むことぐらいは許すかもしれない。

 母親が家事のあとにハンドクリームで手をもんでいるのを、今まで貴方なら見逃すかもしれないが、料理をした後の貴方は気づくことだろう。そのハンドクリームの役目を、貴方の世界でなら一体何が担うのか、考えれば面白い設定が一つできあがる。もしかしたら温めたミルクに手を突っ込むことかもしれないし、米ぬかをアカギレにつめることかもしれない。

 料理だけでなく、着ることも、住むことも体験してみることだ。極寒の地に行くとき、麻の着物を選ぶ者はいない。保温性、通気性(通気性が悪いと、シャツの下でかいた汗が氷る。かなり体温を奪われる。北海道で搾乳に従事していた頃の経験だ)、重さ。様々な要素に気を配らなければならない。

 住処だって多湿か寒冷かで作りはまったく違う。氷点下二十度を下回るような世界で、寝る前に火を落とすようなことがあれば、朝起きたらキッチンに氷柱ができて、ウイスキー以外のものは全部凍り付いているだろう。(何故か醤油とウイスキーは氷ってなかった)

 体験してみるべし。体験のなかで目とカンを鍛えるのだ。

 その2

 ある程度、実際の経験のなかで目とカンを鍛えた後なら、読書も有効だ。

 どんな分野の本も勉強にはなるが、最初は冒険記などがお勧めだ。十五少年漂流記だとか、ロビンソン・クルーソーだとか、ハックルベリー・フィンの冒険だとか。

 状況設定がサバイバルであるから、衣食住が生々しくでてくる。全てを自分で支えようとすると、このようになるのだ。

 冒険記ではないが、一人の少女の一生を見つめる「赤毛のアン」なども物事を見つめる目とカンを鍛えるにはもってこいだ。

 沢木耕太郎の「深夜特急」なども楽しく学べるはず。こちらは映像作品になっており、現地での撮影が素晴らしいのでぜひ見て欲しい。

 余力があるなら、新書や各分野の参考書も読んでみよう。

 我輩がお勧めするのは「日本の食生活全集」だ。47都道府県の伝統的な食生活が網羅されている。この本の優れているところは、在所の細分化と、日常生活に基づいた食生活の姿を書き取っている点。

 一つの県をとって、その県をまるごと「こういう食文化だ」という乱暴なことはしない。県下でも山間と漁村では自ずとその食文化は異なるはずで、その違いを丁寧に書き出している。

 また巷にあふれる料理本のように、この料理をつくるのには砂糖大さじ1、塩少々、なんてことは書いていない。かわりに、どのような時にどのような料理を食べるのか、ハレの食事、ケの食事、季節それぞれの行事を通しながら書きだしてくれている。

 写真や挿絵も優れていて、実に読み応えがある。

 ただこの本、少し値がはって一冊三千円くらいする。全巻セットだと十五万円。CDR版だと多少安いが、それでも十万円以上する。

 なかなか手が出ないなぁ、と意気消沈の貴方様、朗報がある。

 ルーラル電子図書館なるものがあり、そこの有料会員になると食生活全集を含めた膨大なデータベースにアクセスすることが可能になる。月、2500円くらいで、年間会員は二万五千円くらい。

 決して安くはないが、全巻セットを揃えることを思えば安い。それに検索機能も充実しているようで、置く場所にも困らないから、こちらもお勧めだ。

 ちなみに我輩は現物のほうを少しずつ揃えている。

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