雪子の国、人物評その2

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雪子の国人物評その2

前回に続き人物評を記したいが、その前に雑談。

人間に興味ない人の作品ってすぐわかるな、と思う。
面白い、面白くないは別にしても、「あ、この人、人間に興味ない人だわ」と伝わってくる。
しかしこれは無自覚のように思う。人間に興味がないから人間に興味を持っていない、ということがわかっていないのじゃないか。
考えだすと恐ろしくなってくるが、嫌いならまだしも興味ないは自覚症状がない。
そこに興味がある人、こだわりを持っている人だけが「えー! ありえん!」と驚嘆する。興味のない人間は「は?」と目を丸くするばかりだ。
以前、後輩に米の炊き方がわからないという輩がいてググレカスの後に、「米洗うとか書いてあるんすけど、これ農家の人の米だけですよね? スーパーの米って洗うとかないっすよね?」と返ってきた。
思えば奴は好き嫌いが多く、マックのポテトとビタミン剤とエナジードリンクでOK!、という輩だった。
だから人間に興味のない人々に「どうしてこんな台詞吐かせるんですか! この子はこんなこと言わない!」と詰め寄っても「いや、俺のキャラクターだしな」で終る。
人間としておかしい、バックグラウンド的に不自然、台詞のリズムが外れてて会話が気持ち悪い。
こういうことを言っても、「は?」なのだ。米なんて何でも同じだろ、てな具合に。
これは埋め難い溝のように思う。
かく言う我輩も人と比べて興味がないものがあり、それがキャラクターの名前だ。
かつてほど如実に表れてはいないが、初期の作品は全女性キャラクターの名前に「〇〇子」とついていて、「お前女の名前知らんのか」と呆れられたことがある。
今でも、強いこだわりはない。大体、知り合いからとってくる。あとは読んだことのある作品からだとか。
雪子は谷崎潤一郎の細雪からきているし、美鈴は金子みすゞからきている。
名前にはこだわれ、と各方面から注意をうけて、そんなもんかなと首を捻りながらなおして、OKをもらったり。
そんなわけで興味のないものに興味をもてと言われても、感覚がわからないので「?」になる。この「こだわりの溝」というのは、作品視聴のなかで第一関門であり、いくら評判が良くても自分のこだわりをないがしろにされたら見れたものじゃない。

人物評

ホオズキ
キリンの国から続いて登場。よく「お前はホオズキ好きだな~」と呆れられるが、好きだ。
可愛くないし、役にたたないところがいい。そういうものが許されている集団に、ほっとしてしまう。あとうちの犬に似ているから愛着がある。
喋れなくしたのは、我輩がそう決めたというより、必然性としてそうなった、というのが正しい。
キリンの国から十年以上の時が経った。みすずは三十路のおばさんになり、ヒマワリには娘ができた。変わらければ嘘なのだが、化けであるホオズキは姿は変わらない。だから失ったものがあるのだ。
言葉を失ったが、ホオズキの感情表現が乏しくなったとは思わない。元より、「お腹がすきました」以上のことを伝えてこなかったのだろう。書いていてまったく苦労するところがなかった。
けれど変わったところもある。より幼くなって、一層人の感情に寄り添うことが出来るようになった。理屈は理解できないのですっ飛ばす。悲しいから悲しい、嬉しいから嬉しい、お腹が空いたからお腹が空きました!、なのだ。
チビ助、役立たずだが、役にたつこともあった。雪子とハルタの間にいつもいて、直接は握れなかった手をホオズキを通して繋ぎあっていた。
子は鎹。
ホオズキは雪子とハルタの疑似夫婦というオママゴトを成立させるための、仮初めの娘になってくれた。
雪子とハルタが本物になったとき、チビ助の役目も終わるのだろう。

白州雅子
気づいた方もいらっしゃるかもしれないが、モデルがある。
白洲次郎の嫁さん、白洲正子。前々からこの夫婦のファンで、自伝からエッセイ集、料理本まで目を通している。
中身はまた別の所からとってきて、モンゴメリの赤毛のアンがお婆さんになったらどんなだろ、という妄想からきている。いつまでもキラキラした瞳をした素敵なお婆さまになるのじゃないかな、と。
この方はそれなりに複雑な生い立ちがある。薩摩華族から長州軍人の家に嫁いでしばらく東京邸宅で過ごすが、疎開が決まり一人夫の故郷屋敷がある長州へ。そこで終戦をむかえ、未亡人に。夫の弟が身請けする話もでたが流れ、出戻りすることも拒んで――とごたごたする内に、夫家族は再び東京へ。居残る嫁のあつかいに困って、故郷屋敷をあてがいいつしか疎遠に。
白州雅子、赤毛のアンとは別に、靖国の妻となった人の伝記なんかも参考にした。ほとんど本文には出てこないが、台詞を考える時にやはり〝今までなにしてきたか〟を考えてないと難しい。
しっかり考えてから執筆に入れたので、難しいと感じることはなかった。ただ自分以上の人間を描くとき、謙虚な気持ちであたらないと、凄く胡散臭くなるのでそこらは注意した。だから自分で考えたと言うよりは、雅子さんが言っても不自然じゃなさそうだな、と思う台詞を探したというのが近い。説教臭いこと言わせたら、一発で作者の浅薄な人生経験がばれるなと思っていた。

リュウ
彼も複雑な生い立ちがある。一つネタバレをすると、彼は英彦天狗と大陸人のハーフ。英彦は海にひらけた国であり、古から大陸との独自貿易を行なっていた。だからリュウのような存在もそなりにいたのだ。色々あってリュウは人間の国に出て、中国系マフィアの手伝いなんかをして資本をつくり、一時期は大変な財産を手にしていた。しかしハーフであることで軽んじられる組織を疎ましく思うようになり、つながりを捨て一本立ちしようとするが上手くいかない。転げるように落ちに落ちて、雅子と出会う前は、日雇いの飯場からも追い出されたアルコール中毒者だった。そこから紆余曲折あり、雅子に管理人として雇われる。その経緯はいつか物語にしたいので略すが、リュウは日雇い斡旋所の隅で、毛布にくるまり震えていたことを覚えている。だからこそ、代々屋敷の庭を愛し、そこを美しく保ち、豊さを維持することに静かだか確固たる決意をもってあたっているのだ。

虹子
ヒマワリの娘。the ヒマワリの娘という感じにした。捻らなかった。うるせー、と書いてて思う。
何より立ち絵作業で泣かせてくれた。
わずかなシーンで表情がコロコロかわり、またよく動くからその度に差分が必要で、もーほんとに疲れました! 二度目の登場の時は疲れ切っていたこともあって悲鳴をあげた。作者の意図で出演を封じるか、姫様という立場がどうとかで、と狡いことも考えたが虹子は止まらなかった。
ああ見えて13歳ぐらいなのだが、小さく見えるのは原因がある。
神通力を司るテレキネシス細胞というものがあるのだが、これはミトコンドリアと同じで身体が飢餓状態にある時に増加する。そのため天狗の身体は第二次成長期に入る前に、身体を飢餓状態を保ってテレキネシス細胞を増やす期間がある。そのために脂肪がつき辛く、また人間に比べて発育が三年~五年おくれる。これは天狗としての力に比例するので、虹子は特に遅かったりする。ヒマワリの初潮が遅かったのもこのせいだったりします。雪子ちゃんの葛籠が小さいのも、これが原因なんですよ!
おしゃまだが元気に育って欲しいと思っている。

窯元の師匠
前の勤め先で知り合った男性利用者がモチーフ。八十過ぎていたが聡明な方で、また眼光鋭くよく物事を見極めていた。トランプの大統領当選を予見して、本当にそうなった時には驚いた。我輩は絶対クリントンだと思っていたから。しかし彼曰く「見せられているもの以外を見たらわかった」とのこと。いやはやお見それしました。若輩者の我輩では勝てんな、と改めて自分の稚拙さを思い知らされた。そういう衝撃から出来ているから、雅子さん同様、謙虚な気持ちで描かせていただいた。写真は祖父が尋常小学校に通っていた頃の写真がでてきたから、参考にさせてもらった。もう鬼籍に入っているが、祖父が小学生の姿をしていたのはなんだか不思議な気持ちがしたものである。

中原幸子
猪飼の祖母。猪飼の人物評でも書いたが、名前を祖母からとったので彼女の一挙一同が他人事とは思えなかった。中身は必ずしも我輩の祖母ではないが、それでも猪飼の祖母を思う気持ちは痛いほどよくわかった。幼少期、成人期、老齢期の三代を描き分けたのは難しくもあり、楽しくもあった。なかなか統一感を出せたと思うのだが、どうだっただろうか。彼女は他のキャラクターと違い、考えたバックグラウンドをほとんど語れることが出来たが、くどくなかったかは今でも心配。

哲夫
結構後々になって追加した人物。彼のおかげでハルタと猪飼の関係にリアリティと広がりが出たと思う。キャラクターの配置方法で、場所を象徴するキャラクターを置かないと世界が広がらないと考えるのだが、その意味で哲夫は学校生活を象徴するキャラクターだった。哲夫がいなかったら、ハルタの学校生活はかなり印象の薄いものになっていただろう。絵を先に描いて、顔を見ながらこんな性格かな、と想像した。
出番の割にはお気に入り。

星野
ハルタと猪飼にリアリティを持たせるために哲夫を配置したように、哲夫にリアリティを持たせるために配置した幼なじみ。哲夫もそうなのだが、あえて作った、という意味ではなく、カメラに映すようにしたというのが近い。居るにはいたのだ。枠を広げて採用した。
哲夫との関係やエピソードなんかを妄想して色々楽しめた彼女だが、当たり前のことだが本編では封じた。収集がつかなくなる。
皆様も哲夫と星野のハートフルラブコメディを想像して遊んでいただきたい。

美鈴
雪子の国に着手した段階では我輩27であり「うえ、美鈴俺より年上じゃん!」とか思ってたけど、終ったら同い年になってた。恐怖を感じた。
話は逸れるが、昔は三十なんてオッサン、オバサンと思っていたが、いざなってみると全然。いやむしろ三十代の女性とお付合いしたい。蕎麦を食べるためだけに旅行を計画して、帰りに温泉によりたい。涼みどころのマッサージチェアにかかっているとこに飲み物を差し入れたい。
とまぁ我輩の妄想はおいといて、実年齢と近いからスムーズに書けた。服装なんかに三十代感をだそうと苦心したがどうであっただろうか。ちなみに美鈴に現在彼氏はいない。たまに祐太朗と食事をするが、仕事の話ばかりであまり色っぽい話にはならない。

ヒマワリ
うーん、あんまり変わってない。なにせおクワとの絡みしか書けなかったから。これが虹子とのシーンだったら、少しは母親らしい彼女を書けただろうか。娘同様、ちょっとしか登場しないのにやたらと差分が多い。

おクワ
変わらない。変わらなすぎたので髪型だけ変えた。五十路が近いのですけどー。

トシさん
リアルの知人からそのまんま取ってきた。見た目、性格、全部そのまま。実際、我輩は彼のことを「トシさん」と呼んでいた。
長身でカッコイイ、という知り合いは他にもいるけど、マジでモテるのはこのトシさんだけだった。
もうほんとにモテて、一緒に酒飲んでるだけで隣の女の子たちから声がかかった。逆ナンなんてこの世にあるんだなと驚いたものだ。
作中のトシさんはもう一人のハルタでもあり、「雪子と一緒になれなかったハルタ」でもある。
選択肢がない一本ノベルなのでバッドエンドを描くのはこういう方法しかなかった。ただトシさんの生き方をバッドエンドとは言いたくない。どちらかと言うと、トシさんの人生のほうがリアリティのあるもので、我々も共感できるものだと思う。そういうものをバッドと言えばあまりにも救いがない。
勇気がでなかった時を抱えて、それでも生きていってほしい。個人的にあの後が凄く気になる人物。でも考えてません。
「歯磨き粉っていろんな味があるね」という台詞を考えていたけれど(つまり色んな女性の部屋で朝をむかえた)、自然に差し込む流れがなかったのだけ悔いが残る。

史乃
大阪で出会った色んなガールズを足して頭数でわって、そこから東に寄せた感じ。一見、軽そうだけど情があつい女。惚れると尽くすタイプ。でもトシさんとは前カレと別れきる前に関係をもってしまった。色々あって今も一緒に居るが、彼氏彼女という関係でもない。でも本当は彼女になりたいと思っている健気な乙女。恥ずかしいから言わない。トシさんの「特別な子」のことが苦しくて仕方ない。忘れて欲しいがそんなことは言えない。こんなに苦しいならと離れたこともあったが、結局戻ってくる。ああ、揺れる乙女の恋心。

佳純
JK義理妹というバリバリの属性装備を身につけたお方。ただその属性的なテンプレートからは遠ざけようと試みた。それがリアリティにつながるような気がしたから。身長が165㎝あって女性ではかなりの上背。ヒールが高いのなんか履くと、そこらの男子より目線がたかくなる。胸もお尻もおっきめ。体重は5X㎏。油断すると60の入り口が見えてくる。60いかなければセーフというルールで生きている。けっこうモテる。でもそこらの男子より父親のほうがお洒落でスマートだから好き。
彼女のハルタへの思いは何であっただろうか。義理の兄との仲を睦まじくすることで、父が目指した円満な家庭に貢献しようとした。それが始りだっただろう。ハルタも柔らかな性格で、「いきなり歳の近い兄ができるのもなぁ」と思っていた憂鬱も杞憂に終った。男嫌いというわけでもないが、身体つきのこともあって男性が自分に抱く思いを否応なく意識してきた彼女は、そういう目線や思いにめんどくささを感じていた。
だから、「これ俺の彼女」とハルタに写真を見せられた時はどこかほっとしたというか、肩の荷がおりたような気持ちもあっただろう。ただ、ハルタに親しみを覚えていく過程で、ふと振り返ると「あの時私、牽制された?」と思えてしまう。
腹の底がいつまでも読めないハルタに、好奇心はあっただろう。築いていく家族像の一員、年上のお兄さん、様々な関係性と思いがあり、純粋な異性への好意というものに帰結させるには煩雑過ぎたように思う。
ただ今後出会う異性に、いちいちハルタを引き合いに出して比べてしまいそう。

秋子
ハルタのママン。ハルタが高校生の時点ではまだ三十代だった若いお母さん。自由市場資本主義の申し子みたいな人で、何でも自分の努力で解決できて、全ては自己責任的な強者の思考回路。実際、かなりの努力家。ただ出来る人特有の、何故他人が自分と同じ事を出来ないのかわからない、というタイプ。物事を理論的に考え、効率的にこなしていくことが性癖。口癖は「課題の因数分解」「費用対効果」「分業による効率アップ」。
自分にはない自由奔放でのんびりしたタイプの人が好きなのだが、結局、非効率なところが目につきイライラしてきてしまう。自分がやったほうが早い病。彼女の問題は皮肉にも自身の有能さや、成功体験からきている。ハルタとの別れで、何かを失ったことによって、しなやかさを手に入れて欲しい。きっとこれからの時代、成功し続けることは難しいだろうから。

義継
優しくて、お洒落で、清潔で、賢くて、いつも穏やかに笑っている。料理も上手。世の中の皆が夢見るような父親。佳純ちゃんのパパ格好良くていいなー、と佳純が友達から言われ続けたパパ。ただ彼も秋子同様、出来る人、勝ち組に属する人なので、自分の体験や方法論に自信をもっている。また彼の周りも有能な人々しかいないので、出来ない人、不遇な人たちと接点がなく、それ故の理解が届かないことがある。前妻と別れた失敗体験があって、視野が広がったところはある。
登山が趣味で、夏休みには佳純と北アルプスを縦走するのが恒例行事。キャンプや釣りなどのアウトドアも好き。

ざっと主要人物に関して表してみた。人物を考えるのは苦しくもあり、楽しくもある。新たな人物のバックグラウンドを考える度、あたらなければならない資料があり、そのつど勉強になるのは面白い。