8本目 誰でも書ける三幕構成術その2

 前回に引き続いて三幕構成の第一幕、「状況設定」について見ていく。

 主人公の欠けたパイ

 欠けたパイを見て見よう。

 このパイに何が必要かわかるだろうか? そう、欠けた箇所をうめるパイだ。

 昔話において。

 親がいない子供の物語は親を探す物語であるし、友達がいない子供の物語は友達をつくる物語である。お腹がすいている子供の物語はお金持ちになって腹一杯の脂っこいチキンを食べる物語なのは、まだ字が読めない幼子でもわかるものだ。

 つまり。

 人間は本能的に欠けているものを補おうとする習性がある。

 主人公に欠けているものは何か。それを理解することが物語の動機を設定していく、第一歩だ。それは昔話のように単純に家族だとか金だとかではないかもしれない。

 国シリーズは「自分の国(居場所)」を探す物語であり、登場人物たちは誰もが自分の居場所を探している。今考えれば単純な物語だが、この欠けたパイに気づくのに我輩は何年もかかった。

 欠けたパイに気づき、理解し、物語にしていくのは難しい。

 何故なら欠けたパイには主人公独自のオリジナリティや独自の物語性を必要としながら、誰もが共感できるような普遍性も必要とされるからだ。

 突き詰めていけば誰もが一度は望んだ願いを物語りは叶えてあげなければならない。

 だから欠けたパイを見つけるのは難しい。

 しかしこれは物語の基盤になるのだがら、安易に決めるべきではない。

 辛い執筆のなかで、いつしか読者より先に貴方自身が主人公の望みに共感できなくなるかもしれない。執筆の辛さに比べれば、彼らの願いが叶うことなど些末なことになってしまうのだ。

 主人公独自のものであり、かつ誰もが共感できる普遍性があり、最後に貴方自身が成就を渇望するような願い。

 それを見つけなければならない。

 欠けたパイの見つけ方

 第一に主人公のことを知らなければならない。彼がどんな日常生活を送っているのか。何か不満はあるのか? あるいは満ち足りているが何かを失うことを恐れているのか。叶わなかった希望はあるのか、叶えようとしている夢はあるのか。家族構成は彼の心を満たすのに十分だったか? 今までで一番寂しい思いをしたのはいつ、どんな時?

 数え上げれば切りがない質問をぶつけてプロフィール、略歴という名の物語を一つ書いてみるべきだ。

 そこには沢山の発見がある。

 美鈴に大好きな祖父や、まるまると太ったペットのコーギーがいること、二つ違いの姉がいることもこの作業のなかで知った。特に祖父との思い出は美鈴の根幹にもなりえる、重要なエピソードだった。

 めんどくさいがやる価値はある。身長と体重、目の色や髪の色を決めあぐねているくらいなら、この作業に打ち込んだほうが得るものは大きい。

 第二は主人公でなく、貴方自身と向合うことだ。

 先にも記した通り、主人公の欠けたパイを見つけ、それが万人の共感を得られる普遍的なものでも、貴方の心が叫びたくなるほどの渇望を覚えないものなら、執筆という試練は乗り切れない。

 貴方にとって我慢ならないこととは何だろう? 悲しかったことは、苦しかったことは何だったか。

 幼かった日々に目をむけてみよう。大人になってからでは複雑になりすぎ、根本と離れすぎてよくわからなくなったものが、子供の頃の欲求からはシンプルに、純粋に浮かび上がる。

 母親がいない家に帰った日の寂しさだとか。

 友達と喧嘩した苦しさだとか。

 そういうものを見つめなおそう。

 物語は主人公の渇望であり、読者の渇望であり、貴方の渇望である。